タレントとしての宿命
当時、ミキはスタッフの一人としてしか、自分のことを見てなかったと思う。
実際、彼女にはリクエストするお客さんもいたし、
日曜日には同伴出勤もしていた。
こちらに対し、毎日のように
「アサワコ~♡」
などと甘えて呼んでいても、それはそれ。
恋愛感情は全くなく、
彼女にしてみればフィリピーナお得意のジョークに過ぎず、
こちらの一方的な思いなど、迷惑でしかなかったに違いない…。
それでも、
「アサワコ~♡」
と彼女に呼ばれるのをいいことに、
彼女への、好きという気持ちは日増しに強くなっていくばかりだ。
ミキと毎日話しをするようになり、
アパートチェックの時も、彼女のいる部屋に入り浸ることが多くなっていた…。
疑似恋愛とわかってるつもりでも、
彼女との距離が近くなるのを感じ、そんな毎日が楽しかった。
しかし…
ミキとの別れの日がやって来る…。
お店との契約期間の、6ヶ月の満了日が近づいてきたのである!
フィリピンパブの女の子は、
6ヶ月間お店で仕事をしたら、いったんフィリピンへ帰らねばならない。
そして、
6ヶ月経つと、また日本へ来る。
基本的にその繰り返しだ。
リクエストがあれば同じお店で働けるが、なければ違うお店に行くことになる。
こればかりは、タレントの宿命としか言いようがない…。
サヨナラパーティー、そして彼女はフィリピンへ…
その日は、ミキの他にも契約満了の女の子が何人かいた。
”サヨナラパーティー”と称した、彼女たちの6ヶ月間の最後の日。
店内はバルーンや花で賑やかに飾り付けられ、いつもと違う雰囲気。
オードブル、豪華なフルーツの盛り合わせが、パーティーチケットを買ったお客さんに振舞われる。
今日でお別れの女の子は、
普段よりも少し豪華なドレスを身につけ、目一杯オシャレして最後の仕事につく。
お店にとって、サヨナラパーティーは稼ぎ時。
そのため、1ヶ月くらい前からパーティーチケットをお客さんに買ってもらうため、
タレントの女の子は勿論、自分たちスタッフも当日までチケットの売り込みに神経をすり減らす…。
この6ヶ月間、楽しいこと、辛いこと、いろいろあっただろう…。
指名が取れず、社長から怒られたこと、
嫌なお客さんにも我慢してテーブルについたこと、
本命のお客さんとの楽しい思い出…
だが、それも今夜まで。
お店が終われば、彼女たちはプロモーターに連れられて成田空港に直行し、
家族の待つフィリピンへ向かう。
半年振りのフィリピンへ想いを馳せているのか、パーティーの主役の女の子は自然と笑顔がこぼれる…。
いつも以上に忙しい時間が過ぎ、閉店時間の少し前になり、
今日でサヨナラの女の子たちが、
山口百恵 ″さよならの向こう側″
をバックミュージックに、ステージに立って一人一人挨拶をする…。
6ヶ月も一緒にいると、感情移入してしまい、
それぞれの女の子が家族みたいに思えてきて、明日からいないのが寂しくなる。
嬉しさと、他のタレントと別れる寂しさで、泣いている子の姿も。
ステージの上のミキの姿を、
ホールの隅から見つめ、涙が出そうになるのを自分は必死でこらえている…。
果たして、彼女に再び会える日は来るのか?!
数時間後、
ミキをはじめとする女の子たちは、機上の人となり、待ち焦がれたフィリピンへ帰っていった…。
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