写真の中のミキ
ミキたちがフィリピンに帰ったという現実は、なかなか信じられなかった。
夕方になれば、
タレント仲間のフィリピーナと楽しくお喋りしながら、
「オハヨウゴザイマ~ス」
と言ってお店に出勤してくるのではないか…
そんな感覚に襲われていた。
だが、それは自分の妄想であり、
ミキのいない悲しみから逃げたい気持ちだったのかもしれない…。
もう彼女はフィリピンに帰ったんだ、
そう諦めるしかなかった。
その日の営業終了後も、
いつものようにタレントのアパートチェックに行ったが、もぬけの殻となったミキたちが寝ていた部屋を見て、寂しさがまた込み上げてきた。
と!?
部屋から出ようとドアノブに手を伸ばすと、
一枚の写真がドアに貼ったままになっているのに気がついた。
「…ミキ!!」
それは、仲のいいタレント仲間とミキが二人で写っている写真だった!
主のいなくなった部屋に、このまま写真を貼っておいても可哀想だ…
そう思い写真を剥がした。
「もしかしたら、
わざと写真を残してくれたのかもしれない…」
そんな都合のいい、
勝手な想いを胸に抱きながらも、写真を見つめた…。
そして、日本へ
ミキがフィリピンに帰る前、
教えてくれた自宅の電話番号に初めて電話した時、
彼女は、こちらが誰だかわからなかったようだ。
それだけの存在だったといえば、それまでなのだが…。
フィリピンパブのスタッフとタレント。
ミキには好きなお客さんもいたから、
当然の反応だろう。
それでも、
何度も電話をするうちに、
以前より親密になっていくのを感じた。
「アコ(私、のこと)、また日本イクヨ!」
ある時、ミキは嬉しそうに言った。
こちらは、
彼女に会える喜びで嬉しくなったが、
ミキは、また日本でお金を稼げることの嬉しさだっただろう。
だが、
そんな事は薄々感じながらも、
また同じ県内に六ヶ月間働きに来るという、
「奇跡」
に感謝せずにはいられなかった。
彼女に会えるのだから、それでいい!!
そして、
それから程無くして、
日本に着いたミキから電話が掛かってきた…。
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